寒かった・・・
あまりの寒さに心のスイッチを切り、耐え忍ぶ技を実行していた。
ようやくはじめての民家が見えて来て、家々では朝食の準備でたき火が焚かれていた。
火にあたりたい・・・。
昔、キャンプ場で嗅いだ匂いに似ているな。
炭が燃える臭いがする。そうか、ガスじゃないんだな・・・。
おいちゃんのサムローは雑貨屋さんの前でまた停まった。
「がはは!なにか買うか?」
なんてことだ!おいちゃんまた道聞いている。だいじょうぶかなー。本当に不安になってくる。
でもここであせっても事態は解決できない。我々の行き先をおいちゃんが握っている。
「がはは!あと10キロだ!Drink of Power!」
あん?なにがパワーだって?
とおいちゃんの嬉しそうな手元をみると栄養ドリンクのM-150が握られていました。
集落が現れ、とぎれ、またあらわれるというのを繰り返しようやく看板が現れはじめた。
「ノンハン 14km」
わたしは、その看板を見なかったことにした。カウントダウンするのは結構辛い。
さっきの雑貨屋で「まっすぐにいけ」と言われたのに、しばらく走るとおいちゃん左折した。
あー。なまじタイ語がわかるばっかりに心があせるわー。
時刻は6時をまわった。どこのお寺からか説法が聞こえてくる。
どうやら違うと気づいたおいちゃん。
朝市から出てきたこれまたバイクを改造したトラクターのお兄ちゃんに道を尋ねる。
やさしいお兄ちゃんはトラクターで先導 してポイントまで連れて行ってくれた。
やっぱり、さっき曲がってしまったところだった。
トラクターをおりて、お兄ちゃんは私たちが走り出すのを見送ってくれた。
やさしいなー。
すこし、空が明るくなり、風が一瞬であたたかみを増した。
足下が冷え、手先がどうしようもなく冷たくなり、体躯の熱だけは保とうと必死で耐えていた時だった。
集落が多くなり、辻々に睡蓮の絵のちいさい看板が木にくくりつけられている。
間違ってなかった。おいちゃん疑ってごめん!もうすぐ着くね!
あと少し、あと少し。
大きな道をサムローはぶんぶん進み、大きな垂れ幕が見えて「あー!着いた!」と思ったら左折。
ちいさい道に入ってからかなり進んでようやく到着!
突然おおきな駐車場があらわれ、大勢の係員が現れた。
そこには、あの観光庁のホームページで見た風景があった。
寒かった辛い思いを一瞬で覆す瞬間だった。
(つづく)
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